ゲスト 城一裕(情報科学芸術大学院大学 [IAMAS] 講師)
2015年10月16日(金)19:00〜21:00
MEDIASHOP(京都市中京区) 入場無料
普通のレコードでは、録音された音が溝の凸凹に刻みこまれています。「紙のレコード」とは、紙や木に直接溝の凸凹を刻みこみ、その凸凹をなぞることで音を発する代物です。つまりこれは、見かけはレコードでしかないのに「音の記録」ではない奇妙な代物なのです。この「紙のレコード」はどのようにして作るのか、なぜこのようなものを思いつくに至ったのか、そういうことを巡って、これを作った城一裕さんから色々なお話を伺います。
参考:
「紙のレコード」の作り方―予め吹き込むべき音響のないレコード編―
報告(中川克志)
音響文化研究会トーク・イベント第3回は、城一裕さん(IAMAS)に来ていただき、「紙のレコード」の作り方と作られ方について、発想の経緯や、作った後に知った色々な似たような作品たち、あるいは、この「技法」を利用してIAMASの学生に作らせたヘンなレコードたちについて話してもらいました。主観的には、集客数も会場の広さとちょうど良いくらいで、和気あいあいとした雰囲気で、無事終わりました。また、なんと6年ぶりに「The SINE WAVE ORCHESTRA」のメンバーが、岐阜、京都、ベルリン、埼玉から全員集まっており(ベルリンの石田くんより、埼玉から出てきたミズキくんの方がレアキャラなんだそうです)、トーク中に鋭い勘所を突っ込んでくれたのは、面白かったというよりむしろ勉強になりました。確かに、溝の右側と左側をずらしたレコードは、モノラルの針で聞いてみたいですね。
中川は『音響メディア史』の「15章 音響メディアの使い方」で、音響技術史を逆照射するレコードの最先端として「紙のレコード」をとりあげたので、この作り方と作られ方についてじっくりと話を聞いてみたかったので、満足しました。また、中川はその15章の内容を簡潔にまとめて話すつもりでしたが、その必要もないくらい盛り上がったので、しませんでした。このために準備したスライドとレジュメは、イベントの記録の一部として、近日中にここに公開しておきます。
10月16日(金)は実は、ジョナサン・スターン『聞こえくる過去』(インスクリプト)が一般書店で発売された日だったのですが、このトーク・イベントではあまりスターンの話はできませんでした。でも、この「紙のレコード」はいわゆる「あったかもしれない過去」とか「ありえたかもしれない現在」とか「再発明された車輪」だったりするので、『聞こえくる過去』と同じように、メディア考古学的な視点で過去と現在の技術や感覚の技法にアプローチする姿勢の産物ではあります。というわけで、『聞こえくる過去』はメディア考古学とかメディア・アートとかパーソナル・ファブリケーションな活動とかにとって啓発的な代物なので、どうぞみなさま、入手して読んでみてください。